米司法省は9日、オハイオ州クリーブランドの医療機関からアルツハイマー病に関する遺伝子の研究素材を盗み出し、日本に持ち帰ったとして、日本人研究者2人を経済スパイ法違反などの罪で起訴した、と発表した。
<英語記事:アルツハイマー研究の動向>
研究者は遺伝子試料を日本に持ち込んではいないと容疑を否認しているという。
今回の事件の背景には、医薬品に代表されるバイオ市場を巡る覇権争いがある。
バイオ市場は世界全体で2020年には数百兆円規模に達するとされている。
日米欧の製薬会社は、特定の病気に関連する遺伝子を見つけて特許を押さえ、遺伝子研究の成果に基づいた医薬開発をリードしようと競っている。
[「ゲノム創薬競争」を英会話のトピックとして]
昨年解読が終了したヒトゲノム(人間の全遺伝情報)の研究は米国が大きく先行したが、遺伝子探しやタンパク質研究などの「ポストゲノム」では日欧も猛烈な勢いで米国を追い上げており、競争が熾烈になっている。
《「ヒトゲノム解読完了の意義」に関して英会話/ディスカッション》
日本政府は99年にバイオ産業の基本戦略を策定。
バイオ関連予算が98年度の1800億円から2000年度には約3000億円と倍増した。
産業界も研究開発を拡大している。
バイオ関連の日本における特許出願件数をみると、日本は95年に全体の36%だったのが、99年には45%と米国の38%を上回っている。
《「バイオ関連特許数の推移」について英語記事》
スパイ容疑をかけられた研究者の一人が勤務する理化学研究所は、世界の最先端のタンパク質解析装置を導入するなど、日本のバイオ研究の頂点に位置している。
<英語にて解説:理研の研究活動>
今回の事件は、日本が理研をリーダー役に産学官を挙げて米国に急速に迫ろうとしている矢先のことだった。
日本が過去に関係した産業スパイ事件では、82年に日本企業の社員が米IBMのコンピューターに関する企業機密を盗み出そうとして逮捕され、成長著しかった日本のコンピューター産業が足元をすくわれたことがある。
理研の研究者が産業スパイ容疑の対象になったことに、バイオ分野での日本の急追をけん制しようとする米国の狙いを読み取る向きも少なくない。
《「日本人研究者を起訴した米国の意図」について英会話》
米国は冷戦終結後、IT(情報技術)やバイオテクノロジーなどの科学技術を国家戦略の一環として位置付けてきた。
クリントン前政権は巨額の科学技術関連予算を投入、ベンチャー企業の育成にも積極的に取り組み、インターネットの普及などにつながっている。
〔英会話用の口語文体で言い換え〕
こうした国家戦略には国内の知的財産の保護が欠かせない。
96年、バイオや情報通信など先端技術の国家的保護を目的として経済スパイ法が制定された。
企業機密を幅広く定義し、対象はソフトウェアや企画アイディアなどにも及び、罰則も従来より強化された。
<英会話/ディスカッション:知的財産の保護に厳しい米国>
安全保障を重視するブッシュ政権は前政権以上にハイテク技術の流出に神経質になっており、最近もコンピューターの輸出規制を見直したばかりだ。
〔英会話表現による言い換え〕
今後も産業スパイ行為には、厳しい態度で対応する公算が大きい。
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